風よ吹け


2001年10月24日  「この現状を世界に知ってもらいたい」


テロというのは、何のために行うのか。
もし本当に、一部で言われているように「アフガニスタンの現状を世界に知ってほしいから」行ったのであれば、なぜ多くの人の命を犠牲にしなくてはならないのだろう。

イランの映画監督でドキュメンタリータッチの作品を得意とし、世界中にファンを持つアッバス・キアロスタミ監督の2002年1月に公開される作品は、ウガンダの現状である。
この作品には、作られたストーリーはない。
淡々と、ウガンダの今が映し出されていく。

ウガンダは世界でもっともエイズ感染率が高い国であると同時に、長年の内政不安もあって孤児になった子どもたちが160万人もいるという。
彼らを援助するための「ウガンダ孤児救済のための女性運動」UWESOが、キアロスタミ監督に「ぜひ、映画を撮ってほしい。あなたの作品を通して世界中の人々がこの問題を身近に感じてほしいから」と頼んだのだ。
世界から打ち捨てられ、見向きもされなかった現状に光を当て、私たちの目に映し出す。
そこには、徹底したキリスト教のため、いっさい避妊しないという考え方が浸透している。
11人子供を生んだ72才の女性は自分の子どもたちはエイズですべて死んでしまうのだが、変わりに親戚の孤児たち35人を育てている。
マサカにあるエイズ患者支援組織では、亡くなった子どもの遺体を布でくるみ段ボールに乗せて自転車で出ていく。まるで、それが日常生活のように。
今のウガンダを支える女性たちと、彼女たちと暮らすたくさんの子どもたちが、そこにはいる。
女性たちは実に自然でたくましく、子どもたちは屈託なく明るい。
そこに見えるのは、どんな状況の中でも負けることなく強くたくましく生きる「生」の素晴らしさだ。

これを観た観客は、深く考えさせられる。
今の自分のあり方、世界の現状を知らない無知さ、自分は何も手助けできないという無力感。
それは、そのままキアロスタミ監督の意思と合致する。作品について観客と語り合いたいという。
私たちには、まだまだ知らなければならないことが、たくさんある。


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