TODAY'S ENTERTAINMENT
 
2004年2月12日(日)
No008 自転車で冬のシベリア横断

植村直己さんの出身地、兵庫県日高町が主催する「植村直己冒険賞」の2003年受賞者が決まり、その記者発表会の司会をしてきました。
例年、この行事を通して冒険家の方たちにおめにかかりますが、どの方も清々しく、極めた心の美しさをお持ちです。

今回は、9ヶ月かけて極寒のシベリア大陸を自転車で踏破した安東浩正さんが、受賞しました。
自転車というと身近な乗り物で、なんで自転車に乗って冒険なんだと思われるかもしれませんが、冬のシベリア大陸約1万5000キロをいくたいへん困難な旅です。サイクリング気分で走れるわけはありません。

寒いところでマイナス42度。その寒さは痛いほどで、安東さんはマイナス30度を経験していたので大丈夫だと思っていたそうですが、それでも想像を絶するすさまじさでした。
さらに、雪が深く押して歩いたり、クラックにはまったり、全然進めなくて絶望したりの連続だそうで、寒い、しんどい毎日です。しかし世界で最も深く最も古い、凍結したバイカル湖を縦断したときの、あまりの美しさには息を呑みました。ささくれ立った氷、乱氷帯はクリスタルのように透明で、取り囲む大河の森は樹氷となってまぶしく、大気はダイヤモンドダスト現象で光り輝くのです。

彼の目的は人と出会うことでもありました。一般的に単独での冒険となると、人とまったく会わずに到達するというイメージがありますが、貨物のトラックがとおれば、「何をしてるんだ寒いだろ」と座席に上げられウオッカを振舞ってくれたり、村人たちに歓待され小学校にいって日本の話しをしたりととても、暖かいふれあいがもてたようです。

「なんでこんな酔狂なことをしているのかと声をかけられるんですか」と、不躾にも私が伺うと「都会の人ほどそう言いますが、東へ進み自然がワイルドになるほど誰もそういうことは聞かなくなります」というのです。
彼らは、なぜ冒険をするかという心がわかっているからです。
なぜ山に登るのかと聞かれ「そこに山があるからだ」と応えたという言葉はあまりに有名ですが、実は冒険は、目的や意義があってするのではない。
ただしたいから、心の声がつぶやくから、魂が叫ぶからするのだというのです。

今の世の中、心の声が聞こえる人がどれだけいるでしょうか。
単なる目の前の欲望というのではなく、心の声です。その声に突き動かされるパワーに勝るものはありません。
都会人も、心と体を研ぎ澄ませ、自分の心の声に耳を傾ける時間が必要かもしれません。

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